夏 色 の 風





起きたときはすでに夕方で、

円香が額がぶつかりそうなほど

顔を近付けていた。




「うぉ…!」


慌てて顔を逸らして起き上がる。

円香は不服そうだった。


「なによぉ。乙女のあたしが

風邪で寝てる人の唇を奪うと思って?

直之じゃあるまいしー!!

ただ、亮佑って睫毛長いなぁって

見てただけよぉ!」


直之も散々な言われようだ。

自業自得なので反論はしないが。

それに考えてみたらマスク着用のまま

眠っていたのでキス出来るわけがない。

俺は直之化してしまったのか…

ちょっと凹む。




部屋にはうっすら西日が差していた。

雨の音もしないし、きっと晴れたんだ。




「びっくりしただけだから」


「あ!!!!亮佑声出てる!!!!

ちっちゃいけど!!!!」




確かにいつものボリュームはないが、

痰が絡むこともなくスラスラ言えた。

おぉ…睡眠って大事なんだな。

ありがとう、羊さん。




「よかったー。

声が出始めたらもう平気ね!

亮佑ぇ、よかったねー!」


いい子いい子される。

ニコニコな円香には悪いが、

頭を動かしてそれを中断させた。




ケチ〜とかなんとか

ぶつぶつ言っているが、

俺は餓鬼じゃありませんから!

俺を餓鬼扱いするのは母親だけで

充分ですから!




「それより…円香、畑!

畑は大丈夫なのか?」


「うわ…亮佑田舎暮らしにどっぷり

嵌まっちゃった感じ?

さっき見てきたけど、まぁ大丈夫でしょ。

トウモロコシが風でやられてたけど

あいつら意外と強いから平気よ」


そりゃあね、田舎暮らしも

そろそろ板についてきましたよ。

そんなこと言う円香だって、

実は詳しいではないか。

人のこと言えないだろ!