早苗と樽澤さんの手を借りて
ようやく起き上がることが出来た。
ばあちゃんに水を飲ませてもらい
パサパサしていた口の中に
潤いが戻って来る。
「ご飯食べられそう?」
ばあちゃんがお粥か何か作ると
言ってくれたが断った。
今は何か食べられそうにない。
変わりに、早苗が帰宅途中で
買ってきてくれたウィダーを飲む。
うん、これなら平気だ。
だけどみんなにジーィっと見られながら
ウィダーを飲むのはさすがに照れる。
おかげで2回程胸につかえてしまった。
「じゃあ、ばあちゃん氷枕作るから」
今まで頭の下に敷いていたものは
すでにぬるい水になっていた。
円香も頭に乗せていたタオルを
冷やすためばあちゃんに続き、
樽澤さんも何故かついて行く。
部屋には俺と早苗だけが残された。
「…あの」
早苗が気まずそうに顔を下に向け、
繋いだ手を遠慮がちに離す。
寂しいと感じるのは俺だけか。
「連絡くれたのに返せなくてごめんね。
あたし…すぐ帰るつもりだったんだけど
決着つけたいことがあったから…その…」
もじもじと、早苗らしくない。
小さく笑うと、いつもの
勝ち気な早苗の顔で睨んで来る。
早苗が謝るなんて、台風は間違いなく
ココの上空を通過するな…。
ジェスチャーで携帯を取ってもらい
喋れない変わりに文字を打つ。
今、1番伝えたい言葉。
『おかえり』
早苗は顔をくしゃくしゃにして、
小さな声で言った。
「ただいま」

