夏 色 の 風





「さ…な…」




驚きで思わず声が出た。




だって、早苗がこんな所に

いるはずがないんだ。

立石のところにいるはずなのに…

なんでばあちゃん家の、

しかも真っ暗な俺の部屋にいるんだ?




もしかしてこれは夢か幻なのか?

夢オチパターンなのか?

それとも俺が作り出した幻…?




「亮佑…!」




早苗は円香みたいに激しくはないけど

俺に抱き着いた。

温かい…これは幻じゃない。




「よかった…よかった……」




これが夢であったとしても、

俺が今最高の気分なことに変わりはない。




「どうし…て」


やっと搾り出した声はガサガサだ。


「どうしてもこうしてもないわよ!

円香から連絡貰って…心配で

飛んで帰って来ちゃったわよ…

馬鹿…大馬鹿者!!!!」


「ご…ごめ…」


「謝る前に風邪治しなさい!

体力しか取り柄ないくせに

なんで風邪引くのよ!

しかもバス停で倒れてたとか

馬鹿にも程があるわよ!!」




怒られているはずなのに

俺は何故か笑いが込み上げてきた。

うん、これこれ。

これだよ、いつもの早苗だ。




早苗の大声に導かれるように、

ばあちゃん、円香、樽澤さんが

部屋に入って来る。

早苗はすかさず俺から離れて、

何事もなかったかのように

布団の横に座り直した。

ただ……布団で隠れてはいるが

手は繋がれたままだ。




円香が電気を着け、眩しくて

一旦目を閉じる。

目を開けると、みんなが布団を囲み

円香は引っ込めた涙をまた流し出す。




俺ってなんて幸せ者なんだ。