夏 色 の 風





あの早苗がねぇ……

頭の中で早苗が泣いている姿を

思い浮かべてみる。

が、やっぱり浮かばない。

早苗の泣いたところを見たことが

ないからだろう。




あるとすれば……雷が鳴っていた

あの日くらい?




「それでね、中学に入ってから

ばあちゃんや先生にバレないように

こっそりイジメてたんだよね。

放課後、誰もいなくなった教室で

仲間と囲んで冷やかしたり」




女子のイジメは陰湿って聞くけど、

本当にそうだったんだ…。

円香がイジメる側に立っている姿が

まったく想像出来ない。




「ふふ、あたしって陰湿でしょ。

昔はそんなことしてたのよー?」


「だから、笑って言うな!

…てか、じゃあなんで今仲良しなの?」


円香はまた空を見上げた。


「んー…ある日、ナエちゃんに

こってんぱんに口撃されて。

面倒な子っていうイメージから

この子実はすごい?!って。

次の日土下座して謝ったらさ、

"許さない"しか言わないの。

だから許して貰えるまで毎日付き纏った。

そしたらナエちゃんも根負けして

許してくれたの。それからは、

ナエちゃんを悪く言う人はあたしが

陰で鉄拳制裁を…」


「怖っ…円香って意外にやるのな」




ニコニコ笑いながら、

円香は俺の肩にもたれてくる。


本当に…笑い事じゃないんですけど…




注意するのも面倒で、

されるがままになる俺。

円香と一緒にいると、いい意味でも

悪い意味でも玩具にされてる気がする。