夏 色 の 風





「でもね、たまに旦那さんから

連絡があると怒って部屋から

出て来なくなってしまって。

離婚したのは、自分の家に戻ってから

1年程経ったころかねぇ…。

それ以来、ばあちゃんにも菜々子にも

一切連絡して来なくなった。

実際、亡くなったのを知ったのは

菜々子からの連絡だった」




それなら、俺も知ってる。

実際に俺も菜々実叔母さんとは

ほとんど会ったことがない。

2年に1回くらい、家に遊びに来て

お土産をたくさん持って、

たくさん遊んでくれた。




菜々実叔母さんが亡くなったとき、

家に病院から電話が掛かってきて

母さんが電話口で泣き叫んでいた。

ばあちゃんに連絡を入れたのは

確か父さんだったと思う。




「ここからが本題……。

菜々実の遺体に対面したとき、

その側に早苗がいたの」




2人で目を見開く。

その様子を見て、ばあちゃんは

自嘲気味に笑った。




「歳を取っても、ばあちゃんは

菜々実の母親だと思ってた。

だけどあの子は自分で自分の道を決めて

周りには何も言ってくれないの。

菜々子も早苗の存在を知らなかった。

早苗は、菜々子が預かるって

言ってたんだけど…。早苗が

お葬式の時に泣きながら言ったの。

『菜々実さんに何かあったら、

ナツばあちゃんのところに

行けって言われたの。

菜々実さんの意思に従いたい』って」


菜々実叔母さんは最期に、

ばあちゃんを頼った。


「菜々子と話しをしたの。

早苗のことは2人の秘密にしようって。

亡くなった人のことを、

悪く言われたくなかった」