「なんで…早苗の部屋?」


円香はニコニコ笑ったまま、

部屋の扉に手をかける。


「ちょっと…!

早苗がいないのに、いや、いても

勝手に入ったら殺されるぞ?!」


殺される、じゃ生易しいかもしれない。

早苗だったら何でもやりかねない。


「はぁ…亮佑、分かってないねー」


本気で呆れた、と言わんばかりの表情で

円香は説明し始めた。


「いい?ナエちゃんが立石先輩と

出て行った時…なんて言ってた?」


思い返す。

あの時はそれどころじゃなくて、

早苗を引き止めるべきか、行かせるべきか

悩んでいたからあまり記憶がない。




円香はそれを察したのか、

また盛大なため息をついた。


「ナエちゃんは、

『部屋を見ないでね。

特にベッド脇のイーゼルは』って言ったの」


「だから?」


見るなと言われたら

見なければいい。

見たら後で何をされるか…。


「馬鹿ねぇ。だから女の子の気持ちが

分からないって言われるの!

亮佑はナエちゃんに部屋に

入らないでって前から言われてたんでしょ?

なんで去り際に念を押すようなことするの?

つまり、ナエちゃんは…」


「部屋を見ろ、と暗に告げてたと?」


その通り!

円香は俺を指差しながらそんな顔をした。




それは少し無理があるんじゃないかなぁ…

そう思ったけど、円香に睨まれて

何も言えなかった。




「行くわよ!」


円香はやけに張り切っていた。