早苗が帰って来ないまま、

翌朝を迎えた。




「おっはよー、亮佑!」




円香は昨日一度家に帰った後、

また家に来て泊まっていた。

正直、早苗のいないこの家に

円香のこの明るさが今は嬉しい。




いつもなら、朝から早苗が騒いでて

俺が何か口出すと10倍で返ってきて

ばあちゃんが横から無言の圧力を醸す。

それが"いつも"の形で、

その形に慣れてしまっている俺は

早苗が欠けた今の状況が

無性に寂しかったりするんだ。




「おはよ。朝から元気だなー」


「あたしね、決めたの!

ナエちゃんが帰るまでここに居座る!

ぁ、ナツばぁには許可貰ったから!」




エヘヘ、なんて笑いながら

円香は朝食の手伝いをテキパキ進める。

俺はすることがないから、

いつもの席で胡座をかいて

朝の情報番組を見てぐーたらしていた。




「へぇ、この女優さん再婚したんだー」


「亮佑知らなかったんだ?」


おかずを運びつつ、つまみ食いする円香は

テレビをチラ見する。




な、なんだよ。

俺が遅れてるっていいたいのか!

確かにあんまり芸能ネタ詳しくないけど…


「ねぇ、じゃあコレ知ってた?

この女優さんって昔パリで絵を習ってて

その筋では有名な人だったんだよ!」


「へぇ…美人で絵も上手くて…

欠点なんかないんじゃないの?」


「さぁ?前に結婚したのは

パリに行く前だったらしいし…。

意外と遊び人なんじゃないの?」


さすが女の子。

芸能ネタにやたら詳しい。


テレビに写る、女優さんは

婚約指輪を見せながら記者に笑顔を

振り撒いていた。


「あら?亮佑ったら

"美人で絵が上手"ってだけで

ナエちゃんの事考えてんの?

朝から惚気ちゃって。ぁーお腹いっぱい」


「あら、円香ちゃんお腹いっぱいなの?」




ご飯とみそ汁を運んできたばあちゃんに

慌てて否定する円香がなんだか可笑しかった。