夏 色 の 風





「楽しそうだね?」


澄ました顔で笑っていたのは――。




すっかり忘れていた、アイツだった。




「立石先輩?!…えっ、えっ?!」


今度は円香がパニクる。

携帯を放り投げて、だらけていた身体を

無理矢理起こして服を整える。




「円香、立石のこと知ってんの?」


小声で尋ねると、円香はびっくりした顔で

俺に近付いてきて、耳元で言う。


「うちの学年にはね、

ナエちゃんのファンクラブと

立石先輩のファンクラブがあるの!

乙女の憧れの的なんだから!

あのパーフェクトフェイス…ぁあ最高…」




俺のことを"ミーハー"呼ばわりしといて

なんだかんだ円香も"ミーハー"だろ!




それに立石はパーフェクトフェイスか?!

俺には何か残念な顔なんですが。

いや、イケメンなんだけどね。




「立石先輩、何かご用ですかぁ〜?」


急にキャピ声を出して、

立石にタックルする勢いで近づく円香。


ちょっと…

ちょっと…


円香…さん?


「あはは…確か、円香ちゃん?だよね」


「あたしの名前ご存知なんですかぁー?

きゃー、嬉しいぃ!!」




本気で顔を真っ赤にさせて

飛んで喜ぶ円香。




俺には女心が分からないよ…




苦笑いしか出ない俺に対し、

早苗は眼を鋭くさせて立石を睨んでいる。