起こさないようにそっと部屋を出て

静かに居間に戻った。




中に入ろうとしたとき、

ばあちゃんの声が聞こえ一瞬立ち止まる。




「どうして2人にお酒を飲ませたんですか」


静かな怒り。

厳しく叱り付けられるなら

頭を俯かせて反省モード突入だけど、

諭されるような静かな怒りは

戦々恐々になり怖さ倍増だ。




俺の母親も、ある一定の域に達すると

静かに諭すように話す。しかしそこには

"無言の圧力"が加わっている。

つまり、これは無言の圧力の究極版だ。




男は多分、コレに弱い。




「…2人が飲んでみたいと……」


いつもの迫力!ボリューム!は

一体何処へ!?

樽澤さんがこれでもかってほど

身を縮めていた。

同情の視線しか送ることが出来ない

意気地無しの俺を許してくれ…!




「2人が飲みたいと言えば

簡単に飲ませるんですか。

日本の法っていうのはそんなに

甘いものなんですか」


「いや…その」


「以後、この家での飲酒を禁止します」




樽澤さんは俯いていた顔を勢いよく上げ、

ばあちゃんに懇願するように目を向けた。

だがばあちゃんは、フンと顔を背け

"絶対命令"と言わんばかりだ。




それはさすがに可哀相……。

同じ男としては、ここで助け船を

出してやらなければ。




俺は居間に入っていき、

いつもの席に腰掛けた。




「まぁまぁ、ばあちゃん。

確かに樽澤さんも悪いけどさ、

2人だって悪いと思うよ。

樽澤さんにだけそんな厳しくしたら

不公平だと思うんだけど」




樽澤さんの視線が訴えてくる。

『お前は味方だよな!!』




味方になったつもりはないけど、

言葉の通り、樽澤さんだけが

厳しくされるのは可哀相だ。