「樽澤さん。ちょっと」




変色した顔色のばあちゃんが

北島三郎を気持ち良く歌う樽澤さんの

首根っこを掴んで引きずっていく。




こ、怖い……

うちの母親より遥かに怖い。

さすが、母は強し。




「亮佑ぇ、歌おー!

おーおーきなのっぽのふるどけぇ、

おじぃーちゃんのぉとっけいぃ♪」




ツッコミ所満載な歌をありがとう。




奥から戻ってきた樽澤さんは、

すっかり酔いが覚めて

真っ青な顔色になっていた。

それでもばあちゃんの鼻息は荒く、

このままの円香を家に返せないから

円香を泊める、と言い出した。




別にいいけど…何処に泊めるんだろう。

空き部屋はたくさんあるけど、

使わないから掃除も時々しかしないし

毛布とかも備わってない部屋が多い。




「私の部屋に運ぼう…

私はその、ここで寝るから」




いつもの迫力、ボリュームは何処に…?

樽澤さんが呟くようにポツポツ言った。

てか、樽澤さんの部屋なんてあったの?

俺全然知らなかったんですけど!




「酔っ払って帰れなくなったときとかに

泊まる部屋だ。ナツさんの隣の部屋だ」




なんと…廊下では繋がっていない、

ばあちゃんの部屋からしか行けない

秘密の部屋があったなんて!

全然気付かなかった…

なんだかんだ言っても、ばあちゃんは

樽澤さんのことちゃんと

考えてたんだなぁ…




樽澤さんに円香を任せ、

俺は早苗を部屋に運んだ。

ふらふら勝手に動くから、

肩を担いで運ぶのは大変だった。




柱にもたれて、へらへら笑っている。

早苗は酒が弱いんだな…




その場に座りこんでしまったので、

早苗の部屋の扉を開けて、

ちょっと恥ずかしいけど

お姫様抱っこをする。




羽のように軽い…とまでは言わないが

普段何食べてんの?!ってくらい

かなり軽かった。

食べてる物は同じはずなのに。