夏 色 の 風





キッと睨みつけると、

外国人がよく『やれやれ』と

両手を広げて首をすぼめるように

わざとらしいリアクションをした。




「ノリはいい方って聞いてたんだけど。

なんだ、つまんないの」


やっぱり倒れて欲しかったんだ……


アニメや映画だったら、

『チーーン…』

って効果音が鳴るタイミングだろう。




「早苗を返して欲しい」




なんなんだ、こいつ…と

呆れていたところに、

いきなり真顔で、真剣な声を出す。


「また俺をからかってるわけ?」


「そんなわけないだろ。

早苗を返してくれ。あいつは

俺と…俺たちといたほうが幸せなんだ」




真顔で話していたかと思えば、

立石は急に眉間にシワを寄せて

悲しそうな顔をした。




これも演技なのだろうか。

だけど、奴が発する雰囲気は

本物のような気がしてならない。




「明日、迎えに行く。

これは冗談なんかじゃない」




それだけ言って立石は背を向けて

スーパーとは逆の方角に歩き出した。




しばらく呆然としていた俺は、

あいつの背中が見えなくなるころ

ようやく頭が動き出した。




『明日、迎えに行く』


どういうことなんだろう。

明日、早苗を迎えに来るということか?

でも、何故?

あいつになんの権利があって

早苗を迎えに来るんだ?

っていうかまず、なんで呼び捨てなの。

どういう関係で、早苗にとって

どういう存在なんだ?










そもそも、早苗って……

何者なんだろう。