夏 色 の 風





恐る恐る振り返ると、

どこかで見たような男が立っていた。

薄い灰色で襟が黒いポロシャツに、

チノパン、足元はブルーのビーサン。

髪型も今風で、ワックスで整えられ

顔もイケメン風だ。…あくまでも"風"。




俺は必死に記憶を巻き戻した。

最近出会った人で、俺の

フルネームを知ってる若い人…。




……まさか、あの3人組の誰か?




いやいやいや、髪は金髪でも茶髪でもなく

真っ黒で染められたことはなさそうだ。




じゃあ…誰?

もうだめ、ギブアップ。




「…誰ですか?」


ここは正面突破あるのみ!


「ははっ、まぁ、私服で会うの初めてか」


苦笑いもイケメン風。

ぁ、けしてフツメンの嫉妬じゃないから!

なんていうのか…イケメンだけど…

はっきり『この人イケメン!』と

断言出来ないレベルなんだよなぁ。

イケメンだけどどこか残念。

『この人イケメン…?』がちょうどいい。


ぁ、今のはフツメンの嫉妬です。

あしからず。




「立石です」


ニッコリ微笑みながら言ったわりには

憎たらしい顔だった。

それに、言葉がトゲトゲしくて

敵意丸出しな感じ。

じゃあ俺に話しかけんなっ!


「ぁー、ども」


一応頭を下げながら、

3人組で止まった記憶の逆再生を

もう一度始める。




立石……

突然ばあちゃん家に現れた奴。

早苗とばあちゃんからは、

あまり好かれてない様子の奴。

そうだ、初めて会ったとき

こいつのハスキーボイスを

羨ましいって思ったっけ。

そしてちょっぴりこいつに

嫉妬なんかしちゃって。




いやぁ〜、人間って

初めて会った相手の印象を

良く捉えすぎるって聞いたことあるけど

それって本当なんだな!




あの時"中々イケメン"って思ったが

前言?撤回!

この、"ややイケメン"め!!