夏 色 の 風





3人で麦茶を飲みながら、

テーブルを囲む。

もう23時過ぎだけど

直之の最後の夜だからなのか

くだらない話しに花が咲いた。




直之が都会の繁華街で

女の子に声をかけて、

何人相手にしてくれるか…挑戦をした

という恐ろしい武勇伝を聞いたあと

早苗がぽん、と手を鳴らした。



「あたしも今、あることに

挑戦しているのよ」


「何?ダイエット?」


さりげなく直之が言い、

早苗にキッと睨まれる。


「ダイエットは日々おこなってるわよ!

女の子だもん、当然でしょ!」


今日の食いっぷりを見る限り

"ダイエット"をしている風には

見えないけれど。

突っ込まない。突っ込んじゃいけない。




「あたし、直之の将来について聞いてから

自分も頑張らなきゃって思って。

前から先生に言われてた、

美術のコンクールに作品を

出展しようかと思うの。

もう絵は描き始めてるのよ」




早苗も直之の話しから、

感じるところがあったらしい。

俺は結局何になりたい、とか

高校を卒業してから先の未来を

きちんと考えなかった。




だけど早苗は、自らの道を

自分で開くことにしたのだ。

俺とは大違い。

さらに差をつけられた気がして

少し距離感を感じてしまう。




「すげぇじゃん!

賞とか取れたら何か貰えるの?!」


「さぁ…特にないんじゃないの?

今までそういうコンクールとか大会とか

あんまり興味なくて

乗り気じゃなかったけど…

今回はかなり気合いを入れてるわ」


「すげぇじゃん…頑張れよ!

で、賞品貰ったら教えてくれ!

分けれるものなら半分くれ!」


「はいはい、分けれるものならねー」


早苗はあまり相手にしない。

それでも直之は、賞品は何だろうと

想像しているのか口許が緩んでいる。




少しいたたまれない気持ちになって、

俺は風呂に逃げた。