夏 色 の 風





そう決意し、全力で逃げた。




「待てこらぁあっ」


「いいかげんにしやがれ!」




そんなこと言われたって

待つわけがない。

『いいかげんにしやがれ』

って…何を?!逃げることを?

もしそうなら却下!

まだ死にたくないもんで!




右に曲がる道があり、

俺は角にあった木の幹に手を置き

反動で身体を右に向ける。

2人は突然右に消えた俺を追うべく

俺と同じ方法を思いついたようだが

失敗したのか2人一緒に転んでいた。




助かった…

相手が俺より馬鹿で助かった…




ほっと一息ついてから、

俺は物陰に潜んだ。

荒い息を落ち着かせるために

何度も深呼吸する。

口の中は鉄の味がしたし、

汗で背中に仁平が張り付いて気持ち悪い。




「おい…あのガキ…どこに…げぇっほ」


「お前が無理に曲がろうと…はぁ、

すっからわりぃーんだ…ごほっごほ」


「こっちか…?」


「いや、あっちだ」


「なんで分かるんだよ…げほっ」


「俺はカンが鋭ぇんだよ…ごほっ」




まるでお笑い芸人のコント並だ。




カンが鋭いわりに、

足音と話し声は遠ざかって行った。