携帯を取り出しアドレスを開き、かけたくもない名前の発信ボタンを押す。
「修二、救急箱どこにある?」
テーブルを挟んで座る英明の声を聞きながら携帯に耳をあてるけど、一子は電源を切っているらしく、俺は終了ボタンを押した。
「救急箱?何で?」
「遙ちゃんのここ」
英明は自分の額を指でつつく。
あ。
そうだった、遙は額を擦りむいているんだった。
「ああ、洗面所の上の棚の中」
「わかった」
英明がリビングを出ると、俺はエディに視線を移す。
「エディ、携帯繋がらない。一子はホントに日本に来てるの?」
「間違いないよ、パスポートが無かったし、PCで日本行きのチケット予約してるし……」
エディは両膝に肘をついて、がっくりと肩を落とす。
「今度はまたなんで喧嘩したの?」
「ダディが悪いんだよシュージ」
「マムとのやくそく、やぶったの」
「約束?」
「ミュージカル見にいくやくそく忘れてたの」
「はあ?」
たったそれだけの事で……。
しかしあの姉なら有り得るな。
何せ自分を中心に世界が回っていると思っている、超自己中で我儘で高飛車で、数え上げたらキリが無いくらいの扱いにくい女なのだ。
俺の女嫌いの原因と言っても過言ではない。
とにかくあの姉の回りの友人達も似たような女ばっかりで、俺はハイスクールを卒業すると直ぐに家を出て祖父母の住む日本にへとやって来た。
日本はまさに俺にとって理想の環境だった。
何よりうるさい姉とその友人共は居ないし、女の子だってみんな大人しくて可愛い。(時々そうじゃないのも居るけど…)
姉は結婚し、俺は就職が決まり、祖父母は両親からアメリカに呼ばれ、俺は晴れて一人暮らし。
悠々自適な生活を送り出した。
何もかもが順調にいく予定だったんだけど。

