インターホンの音にピタリと抵抗するのを止めた坂口さん。
「………誰だ?」
「宅配便とかじゃないのか?サインするだけだろ?俺が出るよ、もう帰るし」
田村さんはソファーから立ち上がると、坂口さんの背中をポンと叩いた。
「ほら、お前は早く風呂に行け、隅から隅まで洗ってもらえよ?」
「英ちゃ〜ん」
「……何だよそれ…、中坊かよ…、ホントにお前、あの修二か?」
「厨房?」
「説明すんのめんどくせー、じゃあね?遙ちゃん。また明日会社でね?」
田村さんはリビングの入口で固まっている私と坂口さんの横をするりと通り抜けて、玄関へと向かう。
「あっ、はいっ。お疲れ様でした。田村さん」
田村さんは靴を履きながら、私に向かって手を振って玄関のドアに手をかけた。
「はいはーい。こちら坂口ー」
バンッ!と勢いよくドアが開かれて、ドアの外から大きな人影が中に入り込んできて。
「チコッ!!」
「おわっ?!」
その人影は大きく叫ぶと田村さんに掴みかかった。
「チコッ?来てない?」
「はあっ?!何だっ?お前?!」
その人影のただならぬ行動に、私は咄嗟に身体が動いてしまった。
「田村さんば、離さんねっ!!」
人影は男だと確認して、私は田村さんと男の間にねじり込み、田村さんから男を引き剥がし、男をドアの外に押し出した。
「遙ちゃんっ!!」
田村さんの声がドアの内側から聞こえてきた。

