和久井は胸ぐらを掴んでいた腕を離し、身体をくの字に曲げて腹を抱えて爆笑していた。
「ぶははは!ジャ…ジャパニーズって、ぷぷっ…コッ、コソ泥って…はははは」
毎週日曜夕方からの国民的テレビアニメにあんなのが出ていたから、俺は日本に来たばかりの頃、あれが日本の空き巣(thief=泥棒)の代表的なスタイルだと思い込んでいた。
「しかもっ、なんや?その風呂敷っ…ぶっくくくっ…」
唐草模様がツボなのか和久井は中々笑い止まない。
「遙、やっぱお前サイコー、はははは!」
遙の頭に手を置き、ぐじゃぐじゃと撫で回す和久井。
「なっ、そやん笑う事無かろうもん!これが一番荷物まとめるのに丁度いいんや!」
「あはははっ、お前やっぱあの頃と全然変わっとらんなぁ、相変わらず奇抜と言うか、独創的と言うか…」
「和久井君もあの頃私の事、しょっちゅう笑い物にしよったよね…」
「お前が面白過ぎるからやろ?……また、会えて嬉しかよ……」
「…えへへ…私もホントは嬉しかった…さっきは蹴ったりして、ごめんね?」
「いや、遙の久々の蹴り…懐かしかった…」
「懐かしって、あははは、蹴られるような事する和久井君が悪いんや」
遙は和久井を見上げて、傾いた眼鏡から笑顔を覗かせて、和久井も同じように今だに遙の頭に手を置いたまま、目を細めて遙を見ていて、完全に二人の世界に入って行けず、俺の苛立ちはピークに。
「……遙、行こうか?」
話の腰を折り遙にそう言うと。
「ほぇっ?…あっ、すみません、そうですね、行きましょう坂口さん、じゃあね、和久井君」
「……デートの邪魔して悪かったね、和久井君、じゃ、そう言う事だから」
最後に嫌味を和久井に浴びせて、遙と二人車に乗り込む。
俺も体外大人気ない……。
まだ二十歳の学生に嫉妬するなんて……。

