遙の目の前で無理矢理握手をする俺と和久井。
お互い顔が引きつり、握る掌に力が入る。
「よし!」
真ん中で遙が俺達の繋がれた手に両手を置いて。
「これで仲直り!」
満足げに笑う遙に俺達は苦笑い。
「私、荷物用意して来ますね?坂口さん、ちょっと待ってて下さいね?」
そう言うと遙はアパートの階段を登り始めた。
「は?…荷物?…何でや?」
俺の手を今だギリギリと握りしめている和久井が遙に聞くと。
……てか、いい加減離せ…痛いだろ?
「坂口さんの怪我治るまで、坂口さんちでお世話するの!」
遙はパタンとアパートのドアを閉めながらそう言った。
「………どう言う事すか?」
打って代わって好戦的にギロリと俺を睨み付ける和久井。
「…怪我の功名ってやつ?…それとさ?手、離して…右手まで使えなくなったら仕事が出来ないだろ?」
そう言うと和久井は勢いよく俺の手を振り払った。
「……あんた、遙になんかしたら引き殺すよ?…遊びなら他でやって」
もう既になんかしちゃってる訳だけど、そんな事言ったらホントにこの場で引き殺されそうだ。
「こんな腕じゃ…何にも出来ないでしょ?…それに彼女は一度言い出したらいくら断っても聞きそうにない、何せ強情だから…」
そんな遙の性格は熟知しているらしく、それにこの怪我をさせてしまった立場からからか、和久井は言葉を詰まらせた後。
「……遙の事、田舎もんだからって、からかってるんでしょ?」
「いや?真剣だけど?」
「は、あんたみたいな人が…絶対嘘やし……」
こいつは……。
遙が居ないと豹変するな……。
爽やか好青年の本性を見た。
俺も自分がこんなに恋愛に対して好戦的になるなんて、知りもしなかったけど。

