「一度うちに寄らせて下さい」
と遙は俺の自宅マンションを通り過ぎて、郵便局方面へと車を走らせる。
思いがけない彼女の申し出に多少の躊躇いもあったが、それを上回る喜びの方が勝っているのは言うまでも無い。
怪我の功名、とか言うやつだろうか。
ひとつ屋根の下。
誰からも邪魔されずに遙と一緒に。
と言う事が俺はかなり嬉しいらしく、ドアミラーに写る自分の口元ががだらしなく緩んでしまっている事に気付き、拳を口にあて、コホ、とひとつ咳払いをする。
「……もうっ!さっきから!なんや?」
突然遙が口調を荒らげてそう言ってきたので、俺は下心を見透かされたのかとドキリしてしまった。
「……何?どうかした?」
「後ろです」
言われて後ろを振り返ったら、一台のバイクがピタリと後ろに張り付き、カチカチとライトをパッシングしていて、停まれ、と言ってるよう。
恐らくあれは……。
「……和久井、じゃないのか?」
「和久井君?」
「多分…停まったら?」
「もううちに着きますから」
遙はそのまま左折して直ぐの二階建てのアパートの駐車場に車を停車させた。
同じくバイクもその横の運転席側に停車。
彼女が車から降りると。
「遙、何で電話取らんとや?」
やっぱり和久井……。
「病院で電話取れる訳無かろうもん、和久井君のせいで坂口さん大怪我したんやから!」
「え?……そやん酷かとや?…」
「そうだよ、坂口さんは和久井君と違って、アメリカ人で細くて繊細で…とにかく!きちんと坂口さんに謝って!」
いきり立ち始める遙の声に俺は助手席から降りて、車越しに和久井の前に立つ。

