結局他の料理も味がわからないまま、日替わりを無理矢理胃袋に押し込めた。
遙は既に食べ終わり、お茶を啜っていて、俺が食べ終わるのを待っている様子。
箸を置き、遙がやっていたように手を合わせて。
「…ご馳走さまで…」
「まだです」
した…と言おうとしたが遙に遮られてしまった。
「…は?まだって?」
「お茶碗…見て下さい」
「茶碗?」
言われた通りに茶碗を見てみるけど、そこには空の茶碗しかなく。
「まだご飯粒が残ってます」
「飯粒?」
再び茶碗を見てみると縁の方に数粒だけくっ付いていて。
「お米一粒作るのに何日かかると思います?うちの実家、農業やってるんですけど、農繁期には家族総出で、年老いたばあちゃんまでも、朝早くから日が暮れるまで働いて、田植えをするんです」
「……はあ」
「雨が降らず、日照りが続けば水路から水を引いて、逆に大雨や台風なんかが来れば苗が倒れてしまって…」
「……はい」
「…そうやって数ヶ月かけてやっとお米が出来るんです、坂口さん一度お米作ってみますか?それがどれだけ大変な事かわかりますよ?」
「……はい」
「お米一粒には七人の神様が宿ってるんです…だから最後の一粒でも無駄にしたらバチがあたります」
「……はい」
「だから残さず食べて下さい」
「……はい…」
俺は何も言い返せず、遙の言う通りに飯粒を摘まんで残さず食べた。
「はい。良くできました、これからも残さずに食べて下さいね?」
そう言って満足げに微笑む遙。
こんなに子供みたいな顔をした遙に説教染みた事を言われ、素直に言う事を聞いてしまう俺は、自分でも信じられないがもう既に手遅れみたいで……
忘れて下さいと言って俺を犬呼ばわりした彼女に。
認めたくはないが…
どうやら惚れてしまったらしい…

