遙がくわえた指先を立てたまま、暫しジッと見つめてしまう。
まるでそこに全神経が集中してしまったかのようだった。
そんな俺の事などお構いなしに、女性とは思えない位の勢いで、ガツガツと日替わりを豪快に食べていく遙に視線を移した。
モゴモゴと頬を膨らまし、時折胸を叩きながらお茶で流し込み、再び箸を進めていく。
俺はまだ全然手を付けていないのに、遙は既に半分以上はたいらげていて。
「…よかったら…コレも食べる?」
天ぷらの盛り合わせを遙に差し出すと。
「え?いいんれふか?」
「うん。俺、二日酔いだし…あんまり食欲無いし…」
「わあ。ありがとうございます、いただきます!」
歪んだ眼鏡の奥から、大きな瞳を細めて俺に笑顔を見せる彼女に、ドキリとひとつ心臓が脈打つ。
……何だ?…これ?
「坂口さんまだ全然食べて無いじゃないですか?ダメですよ?いくら二日酔いだからって食べないと、身体が持ちませんよ?あ。この海老天凄く美味しいですよ?これだけお返しします。食べて下さい」
言うと遙は箸で海老天を摘まんで、俺の目の前に差し出した。
「どうぞ?美味しいですよ?食べて下さい」
目の前の海老天にかぶり付け、と言わんばかりに身を乗り出して、それを俺の口元に持ってくる遙。
「………………はぐっ」
「ね?美味しいでしょ?」
「……うん…旨い…」
モグモグと海老天を噛み締めるけど、味なんてわからなかった。

