「お待たせ致しました」
女の子のアルバイト店員が料理を運んできて、俺は胸を撫で下ろした。
あいつ(和久井)ときたら、俺達が座るテーブルを横切る度に、遙の鼻を摘まんだり頬を摘まんだり耳を引っ張ったりと、やたらと遙にちょっかいを出してきて。
さっきの無理矢理じゃ無かったと言う遙の言葉の続きを聞きたくて仕方なかった俺を、さらに苛立たせた。
「それとこれは、和久井君からです」
女の子は天ぷらの盛り合わせを二つ俺達のテーブルに置いた。
「え?和久井君から?」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
遙がそう聞くと、女の子はにこやかに笑って伝票を置いてお辞儀をして下がって行った。
「……坂口さん、和久井君からだって…」
「……そうみたいだね」
そんな事、わざわざ言われなくてもわかってる…
遙は嬉しそうに顔を上げて、キョロキョロと辺りを見回し、和久井の姿を見つけると。
「和久井君、ありがと!」
遙にそう言われた和久井は、おう、と一言だけ言って空いたテーブルを片付けていた。
「わぁ、こんなおご馳走久しぶり、いただきますっ!」
綺麗に両手を合わせて、勢いよく海老天にかぶり付く遙。
「おいひぃ〜っ!」
小さな口を、そんなに開くのか?と言うほど大きく開けて、豪快に食べる遙の食べっぷりが可笑しくて、つい口角を上げてしまう。
どんだけ飢えてんだよ…こいつ。
「坂口さん?食べないんでふか?おいひいでふよ?」
口をモゴモゴと、喋りながらも食べる事をやめない遙の口元に飯粒が付いていて、吹き出してしまいそうになりながら、それを摘まんで取って見せると。
「飯粒…ついてるよ?ほら?」
「あ、勿体ない…はむっ!」
「えっ?」
あろうことか俺の指先をくわえてそれを食べてしまった。

