なるべく坂口さんと視線を合わせないように、ジャケットを脱いでもらって、袖口を水で洗い流す。
私は昨夜も坂口さんのシーツにシミを作ってしまって、思わず。
「…すみません、また汚してしまいました…」
「…え?…何?」
「いえっ!何でもっ」
私ったらなんて事口走ってるんだろ…
ジャケットを洗い流して次はハンカチを濡らし、坂口さんのシャツをトントンと叩き拭き取る。
「よかった…こっちはそれほどでもないですね?火傷とか無いですか?」
「うん。火傷は無いよ…あのさ?そこまでしなくてもいいから…」
「坂口さんの着てる物って高級そうですから、シミなんか付けたら大変です」
「はは、そんなに高級品じゃないよ、セットで七万位だし…」
「七万っ?うちの家賃と同じ…やっぱり高級品ですね…」
洋服に七万円って凄い…
さすが坂口さんクラスにもなると着るものにもお金かけてるんだなぁ…
なんて感心していると、急に坂口さんは私の肩を掴んで。
「お前だったのかっ?」
私は心臓が飛び出る位驚いてしまって。
「ほえぇっ?!」
奇声をあげてしまった。
坂口さんは私の傾いた眼鏡を外すと、両手で顔を掴み上を向かせて、グッと顔を寄せて、じっと私を見つめてきて。
「…あっ…あのっ」
何か言わなくちゃと口を開いた時。
「…何やってるか、聞いていい?」
給湯室の入り口に田村さんが居て。
「全然戻って来ないからさぁ…見に来てみたら…これだもんなぁ…」
この情況を見られてしまった事に、私はハッとして我に返る。
この体制は…ちょっと…いや、かなりの誤解を招いてしまっている筈。
私は急に恥ずかしくなってしまって。
「はっ、離さんねっ」
「えっ?…ちょっ!」
坂口さんの手を払いのけ、その場から逃げ出してしまった。

