「ちょっと、コーヒー入れて来ますね?」
「あ。わたしの分もお願いしていいかな?」
「はい、勿論」
席を立ってチラリと坂口さんのデスクを見てみるけど、まだ出社して来て居ないみたい。
大丈夫なのかな?
二日酔い…酷いのかな?
なんて、坂口さんの心配をしていると、オフィスの自動ドアから坂口さんが姿を現した。
ドキリとひとつ心臓が脈打つ。
坂口さんはスタスタと自分のデスクへ向かい、田村さんと一言会話して腰を下ろすと、頭を抱え込んでしまった。
やっぱり二日酔いで辛いんだ…
私はクスリと笑いが溢れてしまって、坂口さんから視線を放しデスクの間をすり抜けて、給湯室へと行く前に、トイレに行く事にした。
トイレから出て手を洗っていると、ふと目の前ある鏡に移る自分の顔を見て、ぷっと吹き出してしまった。
眼鏡がかなり歪んでしまっていて、間抜けだったから。
このまま新喜劇にでも出れそうやんな?
この眼鏡も、もう寿命かな?
給料が出たらコンタクトにしよう、それで里奈さんにメイク教えてもらうんだ。
昨夜ひとつ大人になったし…
私の都会一人暮しお洒落ライフは始まったばかり。
なんて考えていると、方耳のピアスが無くなっている事に気付いた。
えっ?…何処で無くしたの?
気付かなかった…
私の唯一の高級な大人グッズ…
ばあちゃんが成人式のお祝いにプレゼントしてくれたものなのに…
うちにあるかな?
ヘルメット被る時に外れちゃったとか…
アパートに帰ったら探してみよう…
もし見付からなかったら…
…その時は…ごめんね…
ばあちゃん…

