last.virgin




誰よりも早く会社に行く必要があった。



坂口さんの高級そうなシーツを汚してしまったのがどうしても気になって、なけなしの1万円札を封筒の中に手紙と一緒に入れた。



これは大人として、社会人として弁償するのは当然だろう。



でも……。



1万円で足りるか不安だけども、私にはこれが精一杯、明後日の初めての給料が入るまでお財布の小銭だけで過ごさないと…



オフィスに誰もいないうちに坂口さんのデスクにこれを忍ばせておこう、お弁当作る暇がないけど、会社はコーヒーが飲み放題だから、それで何とか乗りきろう…



私は封筒をリュックに入れて、クローゼットからヘルメットを取り出し、アパートを出た。



小銭しかなく、バス代も惜しい私は実家から持ってきた、高校時代からの私の足、スズキ・GS50を駐輪場から引っ張り出した。



…マメタン、持っ来とってよかった。



私の実家は山の中で農業をやっていて、バスも一日数回しかやって来ない、学校やバイトに行く為には足がないと不便なので、16になって直ぐに原付の免許を取った。



元々はお兄ちゃんのバイクだったんだけど、私が無理やりお兄ちゃんから奪ったもの。



スクーターと違って4ストローク、ギア付きなので、お兄ちゃんがイジッて少し改造してあるから馬力もスピードもある、普通のスポーツバイクを小さくしたような感じ。



車の免許を取ってからも私の足として、今まで一緒に過ごしてきた、私の愛車。



身体の小さい私には丁度いい大きさ。



もう社会人になったので、あまり乗らない方がいいかと思ってたけど、持って来て正解だった。



股がりキックスターターでエンジンをかける。



パンパンパン、とマメタンが鳴く声。



シートに腰を下ろすと、チクンと下腹部辺りが痛んだ。



昨夜の名残に違いない…



頭を二三度降り、ヘルメットを被ると、私はバイクを走らせた。