「……ん…」
息苦しさで目を覚ますと、まだ外は薄暗く完全に夜が明けていない事を物語っていて、今何時だろうと、いつも枕元に置いてある携帯に手を伸ばそうとしたけど、身体が動かない。
……ん?なんや?動けん…
その動けない原因。
それはベッドに横になり、私を後ろから抱きしめる坂口さん。
「!っ」
私は一瞬で目が覚めた。
……私…
…昨夜……坂口さんと…
……うあぁぁっ!
一気にその現実が襲ってきて、軽くパニックに陥ってしまった。
坂口さんが起きる前に帰らないと…
話したのだって、昨夜が初めてだし、私はまだ入社して1ヶ月足らず、恐らく昨夜は酔っていたから、坂口さんは私が誰かなんて知らない筈。
身体をゆっくりと捩って、なんとか坂口さんの腕の中から脱出。
坂口さんはその間ぐっすりと眠っていて、起きる気配すらない。
……爆睡?
…まあ…あれだけ酔ってたら仕方ないか…
…ちょっとだけ……
残念な感じがするのはきっと気のせい。
毛布を剥ぐってみると、当たり前なんだけどお互い裸で、私は改めて大人になったんだと実感してしまって、複雑な気持ちになってしまった。
ベッドから降りようと、足を動かすと。
………えっ?
赤いシミを発見。
それは処女を無くした証し。
急に鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなってしまった。
…何泣きそうになんっとるん?
大人になれたんやから…
嬉しい筈なんやから…
静かに、でも急いで着替えを済ませ、落ちていた眼鏡をかけて鞄を肩に担いだ。
眼鏡のフレームが落ちた拍子に、少し曲がってしまったらしく、若干傾いていた。
寝室のドアに手をかけて、いまだぐっすりと眠っている坂口さんをチラリと一目だけ見て、私は坂口さんのマンションを後にした。
夜明けが近付いているまだ誰も居ない歩道を一人で歩いていると、傾いた眼鏡の下から、涙がひとつこぼれ落ちた。

