螺旋状になっている狭い階段を降りて行くと、その一番下辺りに、壁に寄りかかり、項垂れて座っている男の人が居た。
…誰やん、邪魔かね…酔っ払い?
知らぬ振りをしようにも階段を塞がれているので、どうしても移動してもらわないと、一階にはたどり着けない。
「…どうかされましたか?」
躊躇いがちに声をかけてみると、その人はピクリと反応して、後ろでしゃがんで声をかける私を振り返り見上げてきた。
「……何?」
トロンとした目で私を見上げてきたのは、広報の坂口さんだった。
「あのっ、階段、邪魔で、降りれなくて、座ってて…?」
こんなに間近で坂口さんの顔を見たのは初めてで、私はその整った顔付きに圧倒されてしまって、片言の言葉しか出てこない。
「……邪魔?…ああ…ごめん…」
ふらつきながら立ち上がろうとする坂口さんは、とても危なっかしくて、見ているこっちがハラハラしてしまう程。
なんとか立ち上がるも、足元はおぼつかづ、今にも倒れてしまいそう。
フラフラと戸口に向かって歩く坂口さんは、右左と身体を揺すりながら、外へと出て行ってしまった。
あんな状態で一人で外に出たりなんかしたら、車に引かれちゃうかも知れない。
私は坂口さんの事が心配になり、その後を追って外に出た。
案の定フラフラと道路に出ようとする坂口さん。
「坂口さんっ、危ないですよっ!」
袖口を掴んでその足を止めると坂口さんはよろめいてしまい、私にしがみついてきてしまった。
坂口さんの腕が私の肩を抱く形になってしまって驚いたけど、相手は酔っ払い。
「……あの、大丈夫…ですか?」
坂口さんの大人な感じがする香水なのか、いい香りに多少ドキドキしつつ、そう聞いてみると坂口さんは。
「……帰る」
身体を離すと、再びフラフラと歩き出してしまった。

