「遙より遅かとやろ?お前」
「今は、遙より速かですよ…」
「俺は、俺より速い男しか認めん」
「だったら…、円さんより速く走れたら、認めてもらえるとですか?」
「俺より速かったらな、まぁ、無理やと思うけどな」
「やってみないと、わからんやないですか…」
そのまま二人はお互いバイクに乗って家から出ていってしまい、私もバイクに乗って二人の後を追った。
やって来たのはいつもの峠。
「遙はここで待っとって」
和久井君のその言葉に私は二人の後を追うのはやめて、いつも見物人達が集まっている、広めの離合地点にバイクを停めて和久井君を待つ事に。
俺より速い男しか認めんて……
一体なんの事やろか?
でも速く走るって、バイクでだよね?
お兄ちゃんより速く走れる人なんか見た事ないとやけど?
とにかく二人がバイクで峠を下って行ったって事は、バイクでどちらが速いか競っている訳で。
暫くして戻ってきたのはお兄ちゃん一人だった。
「和久井君は?」
「あ?あいつは帰った」
「帰った?何で?」
「俺に負けたけん、もう遙に会うなて言うた」
「はあ?ちょっ!なんやそれ?!」
「俺より遅かったり、俺より弱い男じゃ遙は任せれん」
お兄ちゃんはそう言って、私に断りもなく、勝手に和久井君との付き合いを終りにしてしまったのだ。
お兄ちゃんより速かったり、お兄ちゃんより強い人がこの世に居るとはとても思えん……
その後直ぐに和久井君に連絡してみたけど、携帯は通じなくなって、向こうからの連絡も来る事は無かった。
初めて出来た男友達も、お兄ちゃんのせいでダメになってしまい、お兄ちゃんが側に居る限り、私は自分の意思で友達すら作る事が出来ないのだ。

