お兄ちゃんは両手を地面に付いて、ブツブツと何やら呟いている様子。
私は今のうちにとばかりにアパートに駆け上がり、玄関の壁のフックにかけてある社員証を掴んで、再び階段を駆け降りた。
「さ。坂口さん。早く行きましょう!」
坂口さんを急かして私は車へと坂口さんを引っ張る。
「え?でも…、遙の兄さんが…」
「いいんです。ほっといて!私が嫌いって言ったらお兄ちゃんは二時間くらいはあのままですから!」
「は?」
「早く!」
坂口さんを助手席に押し込んで、私は車を走らせた。
チラリとバックミラーでお兄ちゃんを見てみると、まだorzの格好で固まっていた。
ふぅ………。
取り合えず脱出成功。
「……兄さん。あのままでよかったの?」
「へ?ああ…、大丈夫です。そのうち復活しますから」
でもびっくりしたなぁ。
何でいきなりやって来たんだろう?
確かに五月の連休には帰らなかったけど、でもそれは帰省するお金が無かったからで。
………お兄ちゃん、こんな遠い所までバイクでやって来たんだろうか?
でもお兄ちゃんならそれもあり得るか。
ヤツは野生児並みの体力の持ち主だし、何処でだって寝れるし、何だって食べれるし。
まあ、そんな事はどうでもいいんだけど。
それにしても……
相変わらずウザい。
ウザすぎるお兄ちゃん……
私のやる事なす事にいちいち干渉してきて、何処にでも着いて来たがるし、家に居る時なんて私の部屋から出ようとしないし、あまつそのまま私のベッドに潜り込んできて一緒に寝たがるし。
私が家を出たかった理由はもうひとつ、お兄ちゃんと離れたかったから。
お兄ちゃんのせいで私は学生時代、まともな学生生活すら送れなかったんだから……

