「来いっ!遙っ!」
「ひょっ?!」
お兄ちゃんは私の腕をむんずと掴み、私はそのままズルズルと引きずられていく。
「ちょっ!お兄ちゃん!離して!」
「黙れっ!五月の連休も帰ってこんで!様子見に来てみたらコレや!」
「ちょっと待って!」
助手席から降りた坂口さんは慌ててお兄ちゃんと私の間に入り込み、私はすかさずお兄ちゃんの腕を振りほどいて、坂口さんの後ろに逃げ込んだ。
ななな、何で?
何でお兄ちゃんがここに居ると?
「遙さんのお兄さんですか?」
「……お前こそ…、誰や?」
「僕は遙さんの会社の同僚で坂口と言います」
「………只の会社の同僚が…、何で遙と朝帰りするとや?」
「朝帰りした訳ではありません。これから出勤するんです。彼女は忘れ物を取りにきただけで……」
「……こやん朝っぱらから、二人一緒に忘れ物取りくるんや?朝まで一緒に居ったとやろうが」
「そやん事!お兄ちゃんに関係なかろうもん!」
坂口さんの後ろから顔だけだして、お兄ちゃんにいきり立つ。
「なっ?!お前……、マジでこいつと……」
「だったら何ね?もう私だって二十歳やし、働きよるし、立派に自立しとる!もう大人やもんっ!」
売り言葉に買い言葉。
もう止まらん。
「いつまでも子供扱いにしてっ!お兄ちゃんなんか大っっ嫌いっ!!」
「……だ…、大嫌いやと…?」
「嫌い!嫌い!嫌い!大っっっ嫌いっ!!」
私の嫌いの連発にお兄ちゃんはガクッとその場に膝をつき。
「………やっぱ一人暮らしなんてさせるんや無かった……俺ん事……、大嫌いやなんて…」

