坂口さんのマンションを通り過ぎ、アパートへと車を走らせる。
確かにまだ時間には余裕があるけど、坂口さんを巻き込んでの忘れ物はかなり気が引ける。
私ってば無駄な物ばっかり坂口さんのマンションに沢山持ち込んだのに、肝心な社員証を忘れるなんて。
もう立派な社会人なんて言っておきながら、まだまだ学生気分が抜けてないみたい。
しっかりしなくちゃ。
アパートの屋根が見えてきて、敷地内の駐車場に入り車を停める。
「坂口さん、直ぐに取って来ますね?」
「はは。慌てなくても全然余裕だから」
笑ってくれる坂口さんに救われながら私は車を降りて。
「遙っっ!!」
何処からか私を呼ぶ大きな声がして、その声がする方に顔を向けると。
駐車場のいちばん端に見覚えのある真っ赤な、DUCATI.MOSTER.1100EVO。
このドカ………
……まさか……。
ドカの向こう側からゆっくりと立ち上がったのは。
「………お兄ちゃんっ?!」
「お前えぇっ!朝帰りとかっ!なんばしようとやっ?!」
煙草をくわえた極悪顔が私を睨み付けていた。
「一人暮らし始めた途端にコレか?!にーちゃんはお前ばそやん娘に育てた覚えはなかぞ!」
「ちょっ!お兄ちゃん!声が多きかて!」
「せからしかっ!もう実家に連れて帰るけんな!」
「はあっ?!なんば言いよると?!」
お兄ちゃんは煙草を投げ捨て、こちらに向かってズンズンと歩いてきて、私の前に仁王立ち。

