放課後は、秘密の時間…

その言葉にはっと彼を見ると、


「その代わり、オレも今日の放課後、美術室に行かせて」


堤君は、口の端を上げてニヤリと笑った。


「もちろん、市川には内緒でね」


そんな言葉を残して、あたしの横を通り過ぎていく。


断ることが、今のあたしにどうしてできるんだろう……

市川君とのことを知られているのに。



中庭を出たあたしは、今にも崩れそうな膝に力を入れて、歩いてきた廊下へと戻った。

堤君の言葉が、頭をぐるぐる回ってる。


「放課後、美術室に行かせて」なんて、一体どういうつもり?


こうして校内を歩いていても、生徒は何も言わないし、不自然な視線も感じない。

何もかもが昨日までと同じだ。


だから、堤君はきっと、あたし達のことをまだ誰にも話していないんだと思う。


でもそれも、時間の問題で……


「二宮先生」


名前を呼ばれて、あたしは足を止めた。

今は、生徒の話に付き合える余裕なんかないのに……


周りを見渡すと、早足で近づいてくる生徒がいる。

一緒に香る甘い匂いに、胸が苦しくなって……


こんな風になるのは、一人だけ。


「市川君……」