「待ってっ……」


小さく叫んだあたしを見て、彼は満足そうに笑った。


「一体どうしたいの?何のつもりでこんな、」

「先生、昼休み中庭に来てね」

「中庭?」

「詳しい話は、そのときに」

「……わかりました」


仕方なく返事をして、あたしはその場を離れた。

胸の奥が、嫌なカンジにざわつく。


どうしたらいいの?


彼の口調からだと、きっと市川君のことも知ってる。

もし、こんなことが知れたら、市川君は……


だけど、市川君に相談なんかできない。

市川君には授業があるし、あたしにだって仕事がある。


教師と生徒っていう、お互いの立場だって違う。

それに、今ここであたしが市川君のところへ行ったら、あの時の生徒が彼だって言ってるようなものだ。


でも、このままじゃ……

ダメ、焦ったらダメだよ。


とにかく、お昼休みに話してみよう。


口では、ああ言ってたけど……

もしかしたら、相手の生徒が市川君だって知らないかもしれないし。


今にも溢れそうな不安をなんとか押し込めて、あたしはお昼休みを待つことにした。