「……市川君……」

「先生、失礼します」

「………」


――市川君が来るなんて、思いもしなかった。


もちろん今までにだって、市川君とこの美術室で二人きりになったことは何度もある。

でも、それは……大抵「今日行くから」ってあの写メに脅されて、仕方なくっていうのが多かったから。


だから今、こんな風に何の前触れもなく現れた彼に、あたしはかなり驚いていた。


それに……

もしかしたら、気のせいかもしれないけど。


いつもの市川君とは、少し様子が違う気がする。

どこが?って言われたら、返答に困るけど……


「何か用でもあったの?」


問いかけても、市川君は無言のままだ。


「ねぇ、市川君?」

「……の前の」

「え?」

「この前休みの日に一緒にいた男って、先生の彼氏?」

「あ……」


休みの日って、大也のことを言ってるの?


でも、大也のことは、市川君には関係ないし……

説明する必要だってない。


「市川君には関係ないでしょ」