「急にかかってきたから驚いたけど。先生から電話来るなんて、すげー嬉しい」


そう言った市川君の声は、本当に嬉しそうなものだった。


――でも、それだって全部、演技なんだよね?


「……昨日、斉藤君に伝えてもらったけど、やっぱり、ちゃんと自分で言いたくて……」

「え?センセ?」

「――さよならって……」


まだ、泣いたらダメだ。

泣くのは、電話を切ってから。


携帯を強く握り締めて、最後の言葉を口にした。


「……あたしね、もう市川君とは会えない……」


だって、知ってしまったから。

市川君が、あたしを好きじゃないってこと。


「先生、今――何て言った……?」


驚いた声音に、もう一度繰り返す。


「もう、会えない……会いたくない……」


いつか、市川君に「賭けてただけなんだ」って、そう言われて、離れるくらいなら。

あたしから、全部終わりにしたい。


そんな、最後の強がり。


「さっきから何言ってんの?」