――出なきゃ……


きっと、別れ話をされるんだろうな……


当然だ。

それだけの裏切りを、あたしは大也にしてしまったんだから。


泣きたい気持ちをぐっと堪えて、あたしは通話ボタンを押した。


「……もしもし……」

「あかり……俺」


何日かぶりに聞く、大也の声。

この声をこんな風に聞くのも、多分今日が最後になるんだろう。


「話したいことがある。電話じゃなくて、会って直接。これから時間大丈夫か?」

「うん、平気だよ……どこかで、待ち合わせする?」

「そうだな……じゃあ、花時計で1時間後に」

「わかった。また、後でね」


電話を切った瞬間、あたしはやっぱり泣きたくなった。


待ち合わせ場所が、「花時計」なんて……


花時計は、駅前にある小さな喫茶店。

初めてデートした時に、大也が連れて行ってくれたところだ。


そんな思い出のあるところで、別れ話なんて……

できれば、あの場所だけは避けたかった。


でも、そんなワガママを言う権利なんかない。

逃げ出したい気持ちを必死に抑えて、あたしは駅前へと向かった。