「市川君、今日の放課後……美術室に来てくれる?」

「え?」

「放課後、待ってるから……」


一瞬だけ驚いた市川君は、すぐにパッと目を輝かせた。


「わかった、絶対いく!」


そんな彼の様子に、胸が痛む。


「先生が誘ってくれたのなんて、初めてじゃねぇ?」

「そうかな?」

「そうだよ!」


うん、そうだよね……?


あたしから市川君を誘ったのは今日が初めてだって、あたし自身がよくわかってるよ。


そしてそれが――

今日で“最後”だってことも。


「俺、本当に嬉しい」


そんな顔、しないで……

そんな喜ばないでよ。


「じゃあ、先生、またあとで」


手を振りながら教室へ歩いていった市川君の背中を、あたしは静かに見つめた。


こんな風に彼を見れるのは、今だけだから……

放課後になったら、あたしはもう市川君とは一緒にいられないから。


市川君を好きでいるのは、今日が最後――……