生徒と相合傘なんて、絶対ダメなのに……


断れないのは、きっと市川君が強引なだけじゃない。

あたし自身、心のどこかで嬉しいって思ってる。


「雨最高」

「なにそれ……」

「だって、雨のおかげで先生と一緒に帰れる。ほら先生、濡れるからちゃんと傘入って」


肩を抱き寄せられた瞬間、胸がドクンと鳴った。

もし今が夜じゃなかったら、あたしの顔が赤くなっているのを市川君は絶対に気付いていたと思う。


「――ねぇ先生、キスしていい?」

「な、に……言って…」

「嫌ならしない」


そんなのダメに決まってるよ。

そう、言わなきゃ……


「ホントにしても、いいの?」

「……っ……」


ダメだって思ってるのに、言葉にできないまま。


だって、ダメだけど……

「嫌」じゃない。


ゆっくりと近づいた市川君の唇は、ほんの一瞬だけ、あたしの唇に触れた。


「バス、来なきゃいいのにな」


照れたように笑って呟いた市川君に、あたしはただ俯くことしかできなくて。

ドキドキしてる心臓の音が彼に聞こえないようにと、そればかり思っていたんだ。