「――ごめんね、遅くまで手伝わせちゃって」

「全然。先生一人でやってたら、何時に終わるかわかんねぇって」


謝るあたしに、市川君がにこっと微笑む。



――放課後……

谷村先生の頼みで、美術室と倉庫の備品整理をすることになったあたし。


一人じゃ大変だってことで、市川君や他クラスの美術係の生徒も手伝ってくれてたんだけど……

これがものすごい量で、全部終わるのに、放課後どころか夜までかかってしまったんだ。


さすがにそこまで手伝わせるのも気がひけて、生徒達は早めに帰したんだけど……

市川君だけは、最後まで残って手伝ってくれた。


そんな優しさに、あたしの胸はいちいちぎゅっと苦しくなってしまう。

こんな気持ち、許されないのに……



玄関で靴を履き替えた市川君が、外を見つめて呟いた。


「あ、雨降ってんじゃん」

「ほんとだ……」


朝はあんなに晴れていたのに、今は暗闇の中に糸のような雨が降り続いてる。


困ったなぁ……

あたし、今日は傘を持ってきてないのに。


バス停までは結構な距離があるし、この雨の中、傘も差さないで帰ったら絶対に風邪をひいちゃう。


「先生?帰らないの?」