「飲み物を買ってくる」
「ちょい待ち」
一旦腰を下ろしたが、喉が渇きを訴えていたのでもう一度腰を上げた。
しかしそれを山口が引き止める。
そしてテーブルに転がっていたカードケースからトランプを取り出すと「賭け金は飲み物とそれのパシリ」と言って勝負を持ちかけてきた。
たかが飲み物とはいえ昔の日本、しかも独房で賭け事など御法度だっただろうが今ではそんな物を守っているのは看守は愚か、囚人すらいない。
一応、規則にはあるが自然とそれも衰退していた。
「なぁ山口」
「どうした?」
カードを切っていた同僚に話しかける。
山口が上官であるはずの私に敬語を使っていない理由はただ一つ。それは相手が私だから。
私と山口は同期の看守で、昔から親しくしていた所為か今でも山口は私に対してタメ口である。
しかし馴染みのある者に下手に気を使われるよりはその方が良いと思い、言葉遣いを注意する事はしなかった。
「お前、六十七番の事詳しく知ってたよな?」

