その人は待っていた人ではない。
それは別の――今日の昼、私の頬を殴った看守さんだった。
その看守さんは見るからに不機嫌そうな顔を私に向けると、無言のままベルトにぶら下げてあるキーを使って牢の中に入ってきた。
看守さんは顔がお互い正面を向き合う様に私の顎に手をやる。そのまま私を睨みつけ――。
「何で、貴様はこんな時間まで起きているんだ」
「あ、あの……」
「消灯時間は分かっているだろう。それなのに何で起きているか訊いている」
泥沼の様に濁った目。
蛇に睨まれた蛙の如く身体が凍て付き、金縛りにあった。
こ、怖い。誰か――。
「規則を破った囚人には罰が必要だな」
顎を覆っていた手は徐々に下げられ、私の胸へと伝って行く。
私は恐怖のあまり今の状況が巧く理解出来ない。
その時、この監獄に入った原因となった出来事がフラッシュバックした――。

