月下の踊り子






「つべこべ言わずに競争です。行きますよ。よ~い――」



今の場所からベンチまで距離にして40メートル。


負けないとは思うが最近、運動をしていないから余裕で勝つ事も出来なさそう。


かと言って全力で走るのも大人気ない。


悩んだ。大体、何でこんな勝負をしなければいけないのか。


取り敢えず今、思い付く疲れないで済む方法は――。



「あ、アレは……」

「え」



明後日の方向を指差す。


無意識に舞歌は指を差された方向に顔を向けると、きょろきょろと雲しかない空を見渡した。


青い空に描かれた雲のアート。アレなんかアイスクリームに似て美味しそうである。


何か他に目ぼしい物があるか探索する舞歌。


しかし何も見つからない。まぁ、それはそうだろう。



「あの、羽鳥さん。空に何かあるんですか?」



怪訝な表情で舞歌は訊ねる。


しかし元あった場所に私の姿はなく、かわりにベンチにふてぶてしく腰掛け、煙草に火をつけていた。



「大人気ないっ!」