月下の踊り子



「そうなんですか。あっねぇねぇ、羽鳥さん。羽鳥さんってどんな仕事をなさってるんですか?」

「看守だが」

「いや、そういう意味じゃなくて。看守さんの仕事ってどんな仕事なんですか」

「舞歌は嫌ってくらいに看守達と毎日、顔を合わせているだろう。見ている通りと変わらない。囚人達の監視役が主だ」

「じゃあ、ここにいる人達の最後も」

「ああ、当然、見ているな。いや、実際は囚人に最後を与えるのは私達だ。私達の仕事は法律と言う名を与えられただけの殺人なんだ」

「そう、ですか。あの、羽鳥さんは人を殺す事は怖くありませんか。悲しくはないですんか」



囚人を殺す事が怖い。悲しい。


そんな事、考えた事もなかった。


電気椅子のスイッチを入れる時も心には恐怖だとか悲哀だとかそんな感情は一切流れ出てこない。


最初の時から(あの頃はまだ絞首刑だったが)これは仕事だから。


ずっとそう考えていた。


流石に初めて自分が殺した囚人の遺体を見た時は気分が悪くなったが被害者の家族の顔を見たらそれもなくなった。


大切な人を殺されたから殺した相手を殺してもらって清々した。そんな顔。


殺されたから代役が殺し返す、人間とは虚しい生き物だと思ったから。