月下の踊り子





「……とりー」

「…………」

「はーとりちゃん。そろそろ起っきの時間ですよ~」



ペシペシと頬を叩かれる。母親が子供に話しかけるような言葉遣い。


しかしその声は野太く――はっきり言って不快だ。



「……山口。お前、もしかして私を馬鹿にしてるのか?」

「もしかしなくても、してる」

「えっと、何で?」

「寝起きで巧く頭が回ってないだろ。今、何時だと思ってんだよ」



言われて時計を見てみる。



「九時五十八分」



時計が指している針の通り読み上げた。