「おーい、羽鳥いるかぁ」
倒れないように机を掴んで背もたれにもたれたまま首を仰け反らせ、突然の侵入者を確認する。
まぁこんな陽気な声で挨拶してくる人間なんて確認するまでもないのだが。
予想通り私の目には山口の姿が逆さに映しだされていた。
「どうした」
「そろそろ昼にしようぜ。仕事の方はどれくらい進んだんだ?」
「三分の一くらいだな。そっちはどうだ?」
「別に。何も変わった事ねぇよ。サボり癖の囚人を注意するだけ」
山口は看守の中では珍しく、注意に暴力を使わない。
山口曰く、注意に暴力はいらないし、自分の鬱憤を暴力にして憂さ晴らしに囚人を殴るのも格好悪い。
それが女なら尚更、囚人でも女を殴るくらいなら死んだ方がマシなんて一丁前に格好良いポリシーを持っている、らしい。
ただ人を殴るのが怖いだけの臆病者の戯言に聞こえるかもしれない。
だが、山口のそんな考え方は嫌いではなかった。

