月下の踊り子





今まで何度か見た事はあった。


でも今まで話す機会なんてなかったし、気安く近寄れなさそうな雰囲気を醸し出していたから心の中でどこか苦手としていた。


でも、意外と話して見れば怖い人でもなかったし、自分の踊りも褒めてくれた。


自己紹介した時、いきなり真顔で名前を呼ばれた時は少し戸惑ってしまったけれど。


今日のやり取りで私の羽鳥さんに対する苦手意識はいつの間にか虚空の彼方へ消え去っていた。


それどころかもう一度お話したいとさえ思っている。


なんで?自分の踊りを褒めてくれたから?


ううん、多分違うと思う。


じゃあ、何?


それは、わからない――。



「……すぅ……すぅ……」



月が薄暗い雲に覆われ、世界が暗闇に包まれる。


拡散されてゆく意識の中、自問自答を繰り返していた私はいつの間にか静か眠ってしまった。



☆間奏了☆