☆間奏☆
私はあなたと出会えて本当に良かった――。
それは母の口癖だった。
今でもその声が聞こえてきそうで、夜になると私はもういない母の姿をぼんやりと思い浮かべては「はい。私もお母さんと出会えて良かったです」とあの時は恥ずかしくて言えなかった言葉を心の中で呟いていた。
貧しくても自分を一心に愛してくれた母。
今、母に感謝の言葉が言えるのならどれだけ幸せだろうか。
でも、母と本当に話す事が出来たとしてもきっと「ありがとう」の一言しか言えないんだと思う。
どんなに感謝してもしきれない。それほど母に畏敬の念を抱いている私にとって言葉は意味を成さない。
だから全ての感謝の意味を込めて「ありがとう」この一言で十分なのだ。
「もう寝なくちゃ、あんまり夜更かしすると明日が辛いし」
もうすっかり慣れてしまったとはいえ堅いベッドはやはり寝辛い。
それに毛布というより布キレと表現した方が近いものでは今の寒さは凌げそうにもない。
十二月初頭。きっと街はクリスマスの準備で忙しいんだろうなぁ。
もう随分と見ていない街の風景を思い描きながら寝返りを打つ。
ふと、今日初めて話した看守さんの姿が頭に浮かんだ。
多分、二十七~八歳くらいの厳しそうな目をした看守さん。

