「畜生っ!当たったのかよ」
「何でそこで悔しがるんだ」
「いや、俺は舞歌ちゃんの踊り見たことないから羨ましいなぁっていうただの嫉妬だよ。流石に踊ってくれなんて頼めないしな。で、どうだった?」
「どうだったって何が?」
「踊りだよ踊り。舞歌ちゃんの踊り。感想は?」
「素晴らしかったんじゃないのか」
「はぁ、何だよその曖昧さ。レディに対して失礼だろ。いくら平々凡々な実力だったとしても優しく褒め称えるのが男ってもんだぞ」
山口が溜息を吐く。確かに私の感想は曖昧だった。だが上手く感想を述べることが出来ないのだ。
本当に素晴らしいものを見た時、人は絶賛の言葉を並べる前に無言になる、今のはそれに近い。
「あーあ、乳繰り合ってた人間がこんな無感動な人間だったなんて舞歌ちゃんも可哀相に」
「乳繰り合ってたって、どこからそんな誤情報が流れ出たんだ」
「ただ注意しに行っただけならそんなに時間掛からないだろ。
大方注意しに行って、なんだ!その腰の動きは。
やる気あるのか!と本来の目的と違った注意をする羽鳥。
ああ御戯れが過ぎますわ看守さん、と舞歌ちゃん。良いではないか良いではないか。あ~~れ~~」
よく時代劇なんかである悪代官と舞子さんのワンシーンを一人で熱演する山口。
付き合いきれない、と嘆息して山口を放置して宿舎に戻ろうとする。
つっこみなしの私に対して山口は非難の声を上げる事もせず、私達は就寝の為、宿舎に戻った。

