月下の踊り子





「――舞歌ちゃんか?」

「ぶっ!」



吹き出す。


まさか覗き見していたのか。


山口は顔面に浴びたコーヒーを何事もなかったかのようにハンカチで拭うと、ニヤリと嫌らしい笑みで私の顔を眺めていた。



「やっぱりか」

「やっぱりってお前、覗き見してたんじゃないのか」

「はっ上官殿。私は出歯亀などしておりませんし、例え上官殿と舞歌嬢の逢引きを発見したとしても、それは人に買い物を押し付けておいて自分一人どこかでほっつき歩いてる上官殿の身を案じた部下が上官殿の姿を探している最中に出くわした悪意のない偶然だと思われます」



減らず口を言う。


それは兎も角、
「それで、お前は結局、見てたのか?」


「いや、残念ながら見てない。さっき『起きていた囚人が一人いた』って言っただろう。

こんな時間まで起きてる人間は看守の目を盗んでギャンブルをやってる囚人くらいだよ。

でもギャンブルは一人じゃ出来ない。それと明日の労働に響くかもしれないのにわざわざ何もする事もなしに好き好んで夜更かしする奴はいない。

じゃあその人物は一人で何かする事のあった人間に限られてくる。

ずばり舞歌ちゃんが踊りの練習をしていた!これが私の推理だよワトソン君」


「…………腹が立つくらいに見事な推理だ」