月下の踊り子






「もう少しだけ舞歌の踊りを見ていって良いか?」

「えへへ、何だか照れちゃいますね。でも羽鳥さんお仕事の最中ではないんですか?」

「いや、もう見回りは済んだし今日は終わりだ。後は朝まで用事はない」



一人だけ強引な命令でコーヒーの買出しに行った者がいるがこの際、気にしない事にした。



「踊りの途中で失敗しちゃっても笑わないで下さいよ」



あれだけの物を見せておいて何を言う、と反論しようとしたが止めた。


取り敢えず「ああ」と曖昧に肯いておく。


派手に転ぶなら兎も角、途中でつっかえる位ならそれが失敗だとは判らないだろう。


仮に失敗だと判っても誰も咎めたりはしない。



「…………」



舞歌は静かに目を閉じる。


指先まで伸ばしたか細く白い腕を前に出すとそれがスタートの合図。


流水の如き動きは非の打ち所がない。


腕は柳の様にしなやかに揺れ、足踏みは風の様に柔らかに舞う。